ある年の9月中旬頃、その日は暑かったのでNuZとAllwayと2人の親友のTab(タブ)は
地元三重県の川で泳いだりして遊んでいました。
 この年は暑くてよく川へ行きましたので、正直なところ3人は川遊びに飽きていました。
 そこで、誰からともなく「走りに行こう!」という話になり、我々はかねてより行きたかった
岐阜県の合掌造りで有名な白川郷へ行こうか?ということになりました。

 この時の時刻は14時でしたが、たかが隣の県へ行くだけのことですので、我々は「行ける
行ける!」
と特に気にすることはなく、さらに、Tabは60yenしか持っていませんでしたが、
NutZとAllwayがそれぞれ約10,000yenずつ持っていましたので、「逃げ切れる逃げ切れる!」
と、もう既に気持ちは白川郷にありました。

 そしてNutZがササッと素早く地図で目的地を確認し、我々は単車にまたがりました。
 実はTabは数ヶ月前にAllwayにそそのかされて原付きで事故って足を骨折し、やっと治ったか
もしくはもうちょい安静にしていなければならない状態
でしたが、そんな影は一つも見せずに
単車に火を入れました。

 そして!途中NuZのゴーグルがぶっ飛ぶというアクシデントもありましたが、3時間半後の
17時半に目的地の白川郷に到着しました・・!??
 しかしそこには合掌造りは一つもなく、広い幹線道路を車がビュンビュン走っていました!
 あまりにもイメージと違ったので、Allwayが通行人に話かけて情報収集にあたりました。

「ここは白川村じゃなくて白川町だよ?」

 通行人から情報を得て、我々は愕然としました。NutZが素早くルーティング(ルート選択)
し過ぎて、
白川郷のある白川村ではなく、加茂郡白川町という所へ来てしまったのです!
 しかもそこから白川郷へはまだ100Km以上ありました!

 我々は緊急ミーティングを開きましたが、大体こういうパターンのミーティングは、我々に
とってはあまり意味がありません。この時も

「今日の寝床は合掌造りって決めとったんや!」

 というAllwayの一言で押し切られ、我々は再度白川郷へ向けて出発(でっぱつ)しました。
 我々は峠越えのルートを選び、ちょっと走るとすぐに陽は落ち、あたりは闇となりました。
この時見た、ライトアップされた郡上八幡城は今でも鮮明に覚えています。
 そしてこの時我々は、大自然様から一つのネタを振って頂きました。昼間の三重県は暑かった
けど、夜の岐阜県の峠はめちゃめちゃ寒かった
のです。
 手はもっていかれ、足は膝から下が言うことを聞きませんでした。ですからギアチェンジも、
足の付け根から足を動かしてやりました。
 途中に「いろり」という普通の民宿みたいなのがあり、あれだけ合掌造りを求めたAllwayが
「もうここでええんちゃう?」と、周りの反対を押し切って宿泊交渉に行きましたが満室でした。

 そんな感じで2つの峠を越えて、とうとう我々は白川郷に到着しました。時刻は22時でした。
 合掌造りの宿が数軒あり、早速我々は宿泊交渉に行こうとしましたが、白川郷に来るまでに
給油もしていますので、3人の所持金は合計18,000yenちょっとだということを思い出し、
慎重に交渉して確実に値切らなければならない、とお互いに再確認してから交渉に行きました。

 1軒目は素泊まりで一人6,000yenと言われました。素泊まりなら4,000yenくらい踏んで
いた
我々にとって、この価格は逆驚き価格でした。我々は「素泊まりで6,000yenはないわ〜」
と言いながらその宿を出て2軒目に行きましたが、2件目も同じ価格でした。
 我々は、「ないない!それはない!」と口では言っていましたが、それが相場だと気付き、
厳しい現実を目の当たりにして焦り始めました。
 そして3軒目、我々に事情もへったくれもないのですが、丁寧に事情を説明し、必死に
値切ったところ、「そういうことなら・・5,500yenでいいよ」と言われました。
事情を考慮しておきながら、たった500yenしかまけてくれなかったのです!
 しかし我々は3人がお互いの顔を見回して、

「・・ありやな」

 とハモりました。極限状態で思考回路がおかしくなっていたのです!

 トラノコをはたいて宿を確保し、1,000yenちょっとのおつりを得た我々は緊急ミーティング
を開きました。
そこでは「とにかくこの1,000yenちょっとは明日のガソリン代だから、死守せねばならない」
ということが満場一致で1発可決されました。

 そして我々は風呂に入り、冷えきった体を温め、テンションも回復しました。
 この日のディナーは机に置いてある茶菓子でしたが、我々は達成感で満腹でした。
 そして3人でその日1日の思い出話をしている中、Allwayがトイレの為に部屋を出て、
また部屋に戻って来た時に、NutZがAllwayを見て言いました。

「お前それどうしたんや!?」

 Allwayは2人の目を盗んで、死守すべき金に手を着けて、缶ビールを買って来たのです!
 Allwayは風呂と仲間達との会話とでテンションが回復どころか普通に高くなったようでした。

 その後我々は、「もう何でもええわ!」という雰囲気になり、宿内を物色して
「かっぱえびせん」や「桃」をチャーターしてきたりして、実に楽しく1夜を過ごしました。