我々の友人で、ツーリング体験記第6話にも登場したTab君の左足(右やったかな)が、プラモデルの
足のようになった時のお話です。

 我々がまだ若い頃、Tabは原付の免許だけ取得し、原付は所有していませんでした。
 免許も原付も持っているAllwayは、単車で走る爽快感をTabにも体験させてあげようと思い、いろいろ
考えた結果、親戚のおばちゃんが原付を所有していることを思い出し、二人でAllwayの親戚の家まで、
原付と自転車で行きました。

 正確な住所は不明でしたが、我々は持ち前の嗅覚で何とか親戚の家まで辿り着き、はっきり言って
あまり面識のないおばちゃん
にうまいこと言って原付を借りました。

 最初の乗り出しで、Tabはアクセルを開けすぎてウイリーしそうになっていました。
 その時にAllwayはTabのヤバさに気付くべきだったのですが、特に気にすることもなく、二人は近くのダム まで走りに行きました。

 このダムの近くには、もう使われていない廃旅館があり、ちょっとした心霊スポットになっていました。
 実は我々は、数週間前の夜中に、その廃旅館へ「肝だめし」に行き、えらい目にあっていました。

「よし、ちっと寄ってくか」

 そう言って二人は廃旅館に立ち寄り、夜では怖くて入れなかったところまで入って行きました。
 昼間だから全然怖くなかったので、Allwayは廃旅館の壁に立ちションベンをひっかけてやりました。
 するとTabが、「お、お前そんなことすんなよ」と、「バチが当たるぞ」みたいなことを言い、なぜか
ションベンをしていないTabの方がビビッていました。

 そして我々は廃旅館を後にし、さらに上流へ向かうことにしました。
 この時、Tabはモタつきました。いくらスクーターとはいえ、やはり初めて乗る訳ですから、なかなか
すんなりとはいかないのです。

「ちょ、ちょっと待ってくれ〜!」

 確かにTabはそう言いました。しかしAllwayは当然にTabを無視し、ぷいーっと先に走って行ってしまい
ました。
 しばらく走ってもなかなかTabは追い着いて来ないので、Allwayは徐行し、Tabを待つことにしました。
・・すると!
「・・キュキュキュー・・・」

 数百メートル後方から、かすかにタイヤのスリップ音が聞こえて来ました。
 Allwayは「Tabが事故っとったらおもろいな」と思いながら引き返すと、広〜い道路の端っこドブに
片足をつっこんで座り込んでいる
Tabがいました。
 そういう遊びなのかな、とAllwayは一瞬思いましたが、事故でした。
 立ちションベンのバチが、AllwayではなくTabに当たった瞬間でした。

 「う〜、うう〜」とうめき声をあげているTabに、Allwayは「大丈夫?」と半笑いで近づきました。
 するとTabは、「ちょっと待てよ?足がな、足がな〜・・(;´д`)/」と、ドブにつっこんでいる方の足を、
両手で抱えて地面に持ち上げました。

「あぎーー!」

 と悲鳴をあげるTabの足を見ると、足首がグラッグラになっていて、つま先が通常ではあり得ない、
あさっての方向を向いていました!
 その、首のすわっていない赤ちゃんのような、接着剤の分量を間違えたプラモデルのような足を見た
時は、さすがのAllwayも少しひいていました。

 そうこうしているうちに通行人のおっさんが呼んでくれた救急車が到着しました。
 救急隊員は手際よくTabを担架に乗せ、応急処置をしながら、Tabの名前や住所など必要な情報を聞き
出していたのですが、ここで奇跡がおきました!

 それは一人の救急隊員が、通報者である通行人のおっさんに質問した時です。

 隊 員 「通報者にはいくつか聞かないといけない決まりなので、ご協力を」
 おっさん「えっ!?う、うん」
 隊 員 「お名前は?」
 おっさん「○○です」
 隊 員 「お住まいはこの辺の人ですか?」
 おっさん「うん、もうちょいカミ(上流)のほう」

 そしていよいよ次の質問。

 隊 員 「事故現場の詳しい住所って分かりますか?」

おっさん 「いやいやいや、わしベトナム帰りやで分からへーん」

 どういう目的で何年ベトナムへ行っていたのかは分かりませんが、おっさんは確かにそう言い放ち、
足早に姿を消しました。
 おっさんがそのセリフを言ったのとTabが救急車に搬入されるのとほぼ同時でしたので、Tabからすれば、 「ベトナム帰りやで分からへん、へん・・へん・・」と、フェードアウトして聞こえたに違いありません。

 このようにTabという男は昔から、「高確率でハードラック(不運)を引き当てて、その中で笑いを取る」 パターンが多い奴でした。